社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「仁礼木家に見合った人間を選ばないからよ! 二人ともどうして自分の立場を理解できないのっ!」

 おばさんがヒステリックに声を張り上げた瞬間、客間のドアが開いた。
 ドアを開けたのは、仁礼木のおじさんだった。

「それはお前のほうだ」
「…あなた!」
「これはなんだ」

 おじさんはおばさんに、写真を投げつけた。
 若い男の人達と遊ぶおばさんの姿だった。
 ホストクラブに出入りしたり、ホテルに入るところ、この家に連れ込む姿まである。

「こっ、これは、あなたが悪いのよっ! 今までずっと仕事ばかりで、私を放っておくから!」

 おばさんは一言も謝らず、おじさんを責めた。

「……確かに、自分にも非がある。お互い結婚当初から、愛情がないことも気がついていた。それでも、家族らしくなろうと自分なりに努力はしてきた」
「私を遠ざけておいてよく言うわ!」
「家には八重子がいるから、一緒に来るかと聞いても、断ったのはお前のほうだ」

 おばさんは黙った。
 望む幸せの形が、お互い違ったのだ。
 おばさんが望んだのは、一緒に行動するのではなく、お隣のアパートのように、この仁礼木の家で家庭を作りたかった。
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