社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 でも、結婚したおじさんは忙しく、仁礼木総合病院の院長であり、有名な外科医でもあったから、海外へ行くことが多く、一か所にいるほうが珍しい。
 思った通りの家庭を作りたかったおばさんと、どんな形でもいいから家族でいたかったおじさん。

「それで、私がやることを無視して、放置していたのでしょ!」

 おじさんは首を横に振った。
 医者として活躍し、生きることを決めているおじさんにとって、おばさんが望むような生活はできない。
 来年には、仁礼木総合病院を清臣さんに任せ、海外を拠点にして、医療活動をすると聞いている。
 おじさんの長年の夢だったそうだ。
 仁礼木家の跡取りだったおじさんは、諦めていたけれど、清臣さんの後押しもあり、決意したらしい。
 価値観の違いとすれ違い。
 長い年月によって、歩み寄れないほどにまで、家族関係は壊れてしまっていた。

「昔から、母さんは、家族全員の幸せじゃなく、自分だけの幸せを求めているような人だったよ」

 笑っているのに、清臣さんの目は冷たい。
< 161 / 171 >

この作品をシェア

pagetop