社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「母さんが作ろうとしていた理想の家族は、俺たちにとって狭すぎたんだ。そして、母さんが閉じ込めようとしていた枠は、とてもいびつで醜いものだった」

 私や梨日子さんへの嫌がらせは、おばさんが理想とする仁礼木家を作り上げるため、邪魔だったから。
 そして、それだけにとどまらず、とうとうアパートの住人にまで、嫌がらせを始めた――清臣さんはため息をつく。
 
「母さん。まずは、梨日子と志茉ちゃんに謝ってもらえるかな?」
「なにを言ってるのっ! ただ私はあなたたちのために、相応しい環境を整えてあげただけでしょ!」
「自宅に愛人を連れ込んで、相応しい環境?」

 要人の軽蔑しきった声に、おばさんは身を震わせた。
 おじさんは怒らず、静かに目を伏せた。

「父さん。警察に引き渡す予定けど、その前に二人で話をする?」

 清臣さんの言葉に、おじさんは落胆した様子で首を横に振った。

「もう話すことはない」
「離婚届を書いてくれた?」
「清臣が離婚届を持ってこいというから、持ってきたが……。まさか……こんな……」
「ありがとう。父さん」

 要人はそれを受け取ると、おばさんの目の前に置いた。
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