社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「おめでとう。社長でも部長でも構わないけど、社内では、私にぜったい話しかけないでね」

 私は大学卒業後、要人が勤めていた宮ノ入(みやのいり)グループ子会社の沖重グループへ入社した。
 要人は私に宮ノ入グループを受けるよう言ったけど、それは丁重にお断りし、別の会社に決めた。
 すでに、要人は部長で将来有望、社長や重役に気に入られ、出世間違いなし。女子社員にもモテモテ状態。
 そんなところへ、『幼馴染みです』なんて言って、入社できるわけがない。
 
 ――今の報告からいくと、宮ノ入グループの本社を出て、子会社である沖重グループの社長になるみたいだけどね。

 思えば、沖重グループの前社長も若かった。
 でも、宮ノ入グループ会長の孫で、要人を抜擢したのも前社長。
 前社長はやり手で実力主義。
 同族経営の会社でありながら、使えない者は親族であっても徹底して排除する鬼のような人だと、噂で聞いている。
 つまり、要人は鬼ようなやり手の前社長に気に入られ、現在、出世街道をばく進中。
 でも、権力を与えてはいけない人間に、権力を与えてしまったと思う。
 ため息をつき、卵焼きを箸で切って、口に運ぶ。
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