社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 恵衣と仲のいい営業のメンバーたちは気配りもできるし、話もうまいし、何よりがつがつしてないのがいい。
 だから、女子社員から人気があるし、また飲み会へ参加したいという人が多い。
 それは女子だけでなく、男子社員もそうで、上手に人をまとめる湯瀬さんの人柄ゆえだろう。

「新しい社長だけど」

 その話題に、思わず飲んでいたグレープフルーツサワーを吹き出しかけた。

「どんなかんじですか?」

 要人が実際に、仕事をしているところを見たことがなかった。
 宮ノ入(みやのいり)グループの本社部長で、すごく仕事ができるってことくらいしか知らない。

「噂通り、やり手だな」

「一度見ただけで、人の名前や資料をぜんぶ記憶するんだぜ。今日一日で、だいたいの雰囲気はつかめたみたいだしな」
「あれはもう化け物かってくらいのレベルで、仕事ができる男だよ」
「あんな男と付き合う女は大変だなー」
 
 動揺したせいで、カルビのちょうどいい焼き加減を逃し、ちょっと焦げてしまった。
 網の上から救出したカルビを取り皿に避難させた。

「そ、そうなんだ」
「もしかして、倉地も新しい社長に興味ある?」
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