社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 ――とうとうこの日が来た。
 要人が部長になったあたりから、私に対する仁礼木(にれき)のおばさんの態度がきつくなった。
 そこから、ずっと覚悟していたから、私は平静を上手く装えた。
 
「そうなの。仁礼木の家くらいになると、相手の家柄とかもあるし、当たり前よね」
「だから、志茉。今までみたいには付き合えない」

 私が考えていたとおりの流れだった。 

「そう……。要人、結婚するの?」

 ――寂しくなる。
 でも、ちゃんと祝福するつもりでいた。
 私は要人に幸せになってほしいと、ずっと願っていたから。
 
「ああ。俺は志茉がいい」

 感傷的になっていた私に、要人が言った言葉は予想していなかったものだった。
 仁礼木のおばさんの怖い顔が、頭に浮かび、会うたび言われる嫌みを思い出した。

『結婚は家と家がするものだから、志茉さんはね』
『うちの要人には、女子大出のお嬢様を考えているの』

 私と要人に、なにもなくてもこれである。

「なんで、私とっ!?」
「今まで、何回も言ってるだろ」
「冗談だと思っていたわ……」
「本気だ」
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