社長はお隣の幼馴染を溺愛している
　真剣な顔と低い声が、追い詰められた要人の立場をもの語っている。
　きっと仁礼木家で、要人は相当言われているはずだ。
　沖重の社長になったのも、ひとつのきっかけだと思う。
　取引先から、うちの娘をどうかと、お見合い話が来ていてもおかしくない。
　どれだけ近くにいても、私にとって、要人は遠い存在だ。

「前から言っていたと思うけど、私は要人みたいな華やかな世界は苦手なの。ただ静かに暮らしたい。私の望みはそれだけ。だから、ごめんね」

　いつもなら要人は、わかったと返事をしてくれる。
　それなのに――

「断る」
「断ってんのはこっちでしょ！」
「俺が隣で幸せな家庭を築いているのをみて、志茉はどう思う？」
「仁礼木家に跡継ぎができたのねって、思うわよ」
「違うだろ！」
「住む世界が違いすぎて、想像できないのよね……」

　私の生活費では、とても食べられないような分厚いお肉が、鉄板の上で音を立てて、焼けている。
　焼き肉だけで、この差である。
　要人がいなかったら、絶対に入れないお店だ。
　ここの食事代だけで、私の生活費何日分にもなる。

「そっちが俺を拒んでも、俺は本気でいくからな」
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