社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 こんなにも真剣に、私を追う要人は初めてだ。
 でも、私は――

「要人さん! 志茉さんとどこへ行ってらしたの!?」

 甲高い女性の声に、ハッとして、要人の手から逃げようとした。
 でも、要人は私から手を離さなかった。

「要人……」

 お隣の大きなお屋敷から出てきたのは、仁礼木(にれき)のおばさんだった。
 要人の母親で、昔から、私が要人と関わることを特に嫌がっていた。
 おばさんは夜だというのに、どこかへでかけるのか、派手な服装をしている。
 赤と黄の大きな花柄模様が入った黒地のワンピースとショール、腕には金のブレスレット。
 高いヒールの靴が硬い音を鳴らす。

「どこって、食事だけど?」

 要人が答えると、おばさんはヒステリックに声を張り上げた。

「要人さん、わかっているの!? あなた、宮ノ入(みやのいり)会長からわざわざお嬢さんを紹介していただいたのよ! 向こうのお嬢さんだって、要人さんを気に入ってくださってるのに!」 
「お見合いの話は、きちんと断ってある」

 要人は車のドアを閉め、おばさんと私の間に立つ。
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