社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「私が謝罪の電話をしておきました! 向こうのお嬢さんが泣きながら、電話をしてきたのよ」
「勝手なことをするな」
「私はあなたの母親よ。仁礼木にとっても悪い話ではないでしょう?」

 おばさんはちらっと横目で、私を見る。
 
「お嬢さんはね、どこが悪かったのか、教えてほしいとおっしゃっていたわ。私がどれだけ心苦しかったかわかるかしら? 申し訳なくて涙がでそうだったわ」

 要人がおばさんを睨みつけ、このままケンカになりそうな空気を感じ、慌てて止めた。

「要人、やめて」
「都合の良い時だけ、母親面するんだな。家に若い男を連れ込んで、家族を裏切っているような奴が、息子の結婚に口出しか?」

 若い男――驚き、おばさんを見ると、気まずそうに私から目を逸らした。
 私の両親が生きていた頃から、要人は家に帰らず、一緒に夕飯を食べることが多かった。
 もしかして、要人にはなにか帰りたくない理由があるのかもしれないと思っていた。
 でも、それを要人に聞いてはいけないような気がして、私はずっと聞けずにいたのだ。

「要人、もう遅いから……」

 要人の腕をそっと掴み、おばさんから引き離した。
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