社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 おばさんは私を睨んでから、それ以上なにも言わず、お屋敷の中へ入っていく。
 言い訳をしなかったところを見ると、要人が言ったことは本当だったらしい。

「志茉、悪かったな。明日の朝、迎えに行くから用意して待ってろよ」

 まだ顔をこわばらせたままの要人に、嫌だと言えず、黙って首を縦に振った。
 私は要人が恵まれた環境で、うらやましいと思っていた。
 でも、本当に要人は、あのお屋敷で幸せだったのだろうか。
 私のアパートよりも大きなお屋敷の灯りは、おばさんの裏切りを知る前まで、明るく華やかに見えたのに、今は心なしか、その灯りが陰って見えたのだった。
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