社長はお隣の幼馴染を溺愛している
桜が散る場所
 桜の花が完全に散ってしまった週末の日曜日。
 明け方に降った雨は止み、青い空が広がっていた。
 その明るい陽射しとは真逆の黒のスーツを着て、黒い鞄と靴、真珠のネックレスを身につけた。
 玄関に置いてある父と母の写真に手を合わせ、アパートのドアに鍵をかける。
 階段を降り、駅に向かうのに仁礼木(にれき)のお屋敷前を通った。

「昨日は要人(かなめ)さんと食事をして楽しかったかしら?」

 私を待ち伏せていたのか、仁礼木のおばさんに捕まった。
 今日は会いたくなかったけれど、会ってしまったものは仕方ない。

「……おはようございます」

 挨拶をするも、向こうは私の挨拶を無視して、一方的に話し出す。

「昨日、聞いたとおり、要人さんにとてもいい縁談がきているの。自分が仁礼木家に相応くないことはおわかりよね? 仁礼木との約束を忘れないでちょうだい」
 
 私が住む古いアパートと仁礼木のお屋敷を見比べ、おばさんは意地悪く笑った。
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