社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「要人さんは優しい子ですからね。志茉さんの可哀想な身の上に同情しているだけなのよ。自分の立場に合った女性と付き合えば、目が覚めるわ」
「そうですね……」

 ――私への好意は同情。

 両親を亡くした私を見捨てられなかった要人。
 一人になるのが怖くて、要人にすがった私。
 私さえ、いなければ要人はもっと自由に生きることができる。
 黒い服を着た私にかけられる言葉は、優しいものではなく、心まで黒く染められてしまう気がした。

「用事があるので、失礼します」
 
 おばさんの横を通りすぎようとした瞬間。

「お金が必要なら言ってちょうだい。要人さんから、お金をもらっているんでしょ?」

 さすがにこれは――ぐっとこらえていた言葉が口をついて出る。

「いいえ。そんなふうにしか考えられないのなら、可哀想なのはおばさんのほうです」

 おばさんはなにをやっても満たされず、幸せではないのかもしれない。
 要人とおばさんのやりとりは、親子というより敵同士。
 仲がいいようには、まったく見えなかった。

「要人とは付き合っていません。今日は両親の命日なんです。静かに過ごさせてください」
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