社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「なお、悪いわっ! いい!? 私に絶対に話しかけないで! 他人のふりをしてっ!」
「なんだそれ。つまらないな」

 なぜ、私が要人を楽しませなくてはならないのか。
 額に手を置き、げんなりした顔で要人を見る。
 ずっと調子である。

「はい、報告が済んだなら、私の部屋から速やかに出て行く! 私が要人のお母さんから、嫌味を言われるんだからね」

 私も要人も気づけば、好きとか嫌いとか、冗談で済む年齢ではなくなっていた。
 次男とはいえ、要人は仁礼木家の大事な息子。結婚相手もちゃんとした家のお嬢様を考えていると、仁礼木のおばさんから、さりげなく、釘を刺されている。
 それを、要人に言えば、おばさんとケンカになるだろうと思って、私の心の中に納めてある。

「夕飯、食べてから帰る」
「お金持ちなんだから、外で食べてきたらいいじゃない」
「志茉の作った物がいい」
 
 仁礼木家に比べたら貧相な食事なのに、要人は私と夕飯を食べる。
 私はわかっていた。
 両親が死んでから、要人は私が一人にならないよう気を遣ってくれていることを。

「……そこの貯金箱に五百円入れておいて」
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