社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「志茉さんの好きな車を買って、驚かせるおつもりだったんでしょう」

 確かに驚いたけど、きっと要人が求めていた反応とは違う方向で驚いた気がする。
 高級車に乗ったヤクザ風の男を演出するには、ぴったりだった。

「要人坊っちゃまはお小さい頃から、なんでもできる優秀なお子様でしたけど、志茉さんにはいくつになっても勝てませんね」
「そうですか? 私はいつも要人に負けているような気分になります」
「まあまあっ! そんなことありませんよ」

 八重子さんはそう言ってから、ふとなにかを思い出したかのように、自分の頬に手をあてた。
 
「そういえば、要人坊ちゃまが家をお出になる話はお聞きしましたか?」
「要人から聞きました」
「私もね、この歳でございましょ? 要人坊ちゃまが家を出たら、仁礼木の家政婦を辞めるつもりなんですよ」

 本来なら、八重子さんはすでに退職していたはずだった。
 それを要人のお父さんが、若い家政婦だけでは心配だと、八重子さんを止め、もうしばらくだけと頼んだらしい。

「とうとうお辞めになるんですね……」
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