社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 誰から教えてもらったのか、八重子さんは指と指をくっつけて、ハートマークを作った。

「ご結婚は今年でしょうかね? それとも来年?」
「八重子さんっ! だから違うんですってばっ……」
「志茉? なにしてるんだ? 会社に行くぞ」
「ひえっ! か、要人!」

 いつの間に出てきたのか、要人は道路にマセラティを止め、私を呼ぶ。
 慌てて腕時計を見ると、もういい時間だった。

「や、八重子さん、失礼します」
「はい。いってらっしゃいまし」

 八重子さんは私たちが乗った車が見えなくなるまで、道路に立ってを見送る。
 
 ――まったく、八重子さんには敵わないわ。

 要人より、厄介な相手である。

「八重子さんとなにを話してたんだ?」
「え、えーと。天気の話よ」
「怪しいな」

 知らん顔してくれたらいいのに、要人は無駄に鋭い勘を発揮して、私の嘘を見抜こうとする。
 視線を感じ、要人を横目で見る。

「前だけ向いてなさいよ! 危ないでしょ!」
「なんか、俺に隠してないか?」
「隠してません!」

 要人は変なとこで勘が鋭いから、気を付けなくてはならない。
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