社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 どちらも混雑していて、待っている社員たちは、イライラしているのがわかる。

「わかりました」
「悪い!」

 先輩に平謝りされては仕方がない。
 でも、愛弓さんはスマホを触っていて、先輩にも私にも悪いとは思っていなかった。
 なんだかなぁと思いながら、渡された書類を受け取った。

「あっ! 倉地さん。それ、カルティエの腕時計じゃないですか」 
「え?」

 ちょうど受け取った時に、私の腕時計がブラウスの袖からのぞいて見えたらしい。
 愛弓さんは目ざとく、ちらりと見えただけの腕時計に食いついた。

「そうなの?」
「カルティエのベニュワールですよー! ピンクゴールドがかわいいの。ダイヤモンドがゴージャスで高いのに、どうやって手に入れたんですか?」
「ダイヤモンド!?」

 思わず、腕時計を二度見してしまった。
 確かにキラキラした石がある。
 今まで知らずに、この腕時計を邪険に扱ってしまったことを後悔した。
 要人(かなめ)が就職祝いにと、私にくれた腕時計で、箱にも入ってなかったから、気軽に身に付けて構わないだろうと思っていたのに……
 ダイヤモンドだとわかると、腕時計がずっしり重く感じた。
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