社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 髪と服を急いで直し、社長室から逃げるように飛び出した。

 ――要人は幼馴染の関係を終わらせるつもりでいる。

 まだ要人の強い力で握られた腕が、その感触を残している。
 唇も。

 ――私を追い詰めて、要人はどうするの? 行き着く場所は別れしかないのに。幼馴染でいる間は、ずっと一緒にいられる。でも、その先は許されない。

 泣きそうになった自分に気づき、途中で化粧室に寄った。
 気持ちを落ち着けないと、仕事ができそうにない。

「要人を失いたくないのに……」

 幼馴染でなくなったら、私たちの関係は終わる。
 それを要人は知らない。
 知らないのだ――
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