社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 恵衣の声を打ち消す大きな声。私を呼んだその声は、愛弓さんのものだった。
 注目を浴びても平気なのか、愛弓さんは堂々としていて、その隣には要人がいた。 
 外で会う要人は、普段の要人と違って、表情が少ない。
 今も無表情で、なにを考えているか、さっぱりわからなかった。

「要人さん。こちら、倉地さん。営業部の湯瀬さんから紹介してもらった私のお友達です」
「お、お友達っ!?」

 すでに恵衣と愛弓さんは、一戦やらかした後なのか、二人はお互い口をきかなかった。

「倉地さんとコピー機のところで、おしゃべりをして仲良くなったの」
「知っていますよ」
「え? 知ってる?」

 愛弓さんは不思議そうに首を傾げていた。
 私が社長室に書類を届ける原因を作ったのに、愛弓さんは覚えていないらしい。

「コピーした資料を社長室に届けたんです。それで……」
「そう、それで――」
「知っているだけなんです!」

 すばやく、要人の言葉を遮った。
 なにを言い出すかわからない。
 私が睨みつけても、要人は平然としている。
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