社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 
 ――もしかして、腕時計?

 私の腕時計を見て、高い腕時計を買ってくれるような彼氏とか、愛弓さんが言っていたような気がする。
 私に張り合うつもりで、要人を連れてきたらしい。

「扇田さんより、倉地さんと社長のほうが、お似合いじゃないですか?」
「恵衣!」

 愛弓さんが目を潤ませ、泣きそうな顔で要人のシャツを掴んだ。

「要人さん。あの人、とっても怖いんです。今日も私に嫌がらせばかり……」
「嫌がらせ? 注意しただけでしょ。エントランスのソファーは来客者のためのもので、好みの男性を物色する場所じゃないんです」
「要人さんの前で、そんなこと言わないでよっ!」

 愛弓さんと恵衣は、第二回戦目らしく、火花を散らす。

「愛弓さん。話の途中で申し訳ないんだけど、私たち、昼食が終わってないから」

 この場をなんとかしようとした私に、恵衣は気づいてか、にっこり微笑んだ。

「そうだ。扇田さんって香水、詳しいかしら?」
「香水?」

 愛弓さんは恵衣の唐突な質問に、きょとんとした顔をした。
 けれど、意図を察した要人は、恵衣に悪い顔で笑う。
 それはまるで、『どうぞ』と言っているような顔だった。
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