社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 感情を隠さず、正直に私に言うのだ。
 だから、これは本気だ。本気で要人は言っている。
 隠し続けてきたことを言ってしまえば、私は楽になる。
 けれど、要人はきっと苦しむ。
 だから、言いたくなかったのだ。
 ずっと――
 
「俺を忘れて、どこかへ行くつもりか? そんなことできると思うな。どこへ行っても俺は探し出して、連れ戻す」

 要人は私を抱き締め、髪に顔を埋めて、キスをする。
 大きな手は、私の頭を撫で、そして、耳元で囁いた。

「志茉、俺が全部悪い。あの時、止まれなかった俺が悪い。志茉の後悔は、俺が全部もらう」
「違う。要人は悪くない。私が悪いの! 一人になりたくなくて、要人にすがって。誰かそばにいてほしくて……」
「それをわかっていて、奪ったのは俺だ」

 私だけでなく、要人も同じように悔やんでいたのだと知る。
 違う形でお互いの想いを伝えられていたなら、私たちはいびつな関係のまま、過ごさずに済んだかもしれない。
 でも、過去の私たちは若く、そんな冷静でいられなかった。
 
「俺の家族は志茉だけだ。だから、言えよ。志茉を追い詰めたのは、仁礼木なんだろ?」
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