社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 失う恐怖に、体が震え、畳の上に映る自分の黒い影だけを見つめていた。
 重ならない影、三つあった影は、一つだけになってしまった。

「寒いのか? 毛布持ってくる。志茉、少し眠れよ。眠ってないだろ?」
「行かないで……」
「どこにも行かない。俺は志茉のそばにいる」

 離れようとした要人をどこにも行かせたくなくて、体に抱きついた。
 要人には家族もいて、綺麗な女の人たちだって――要人は私じゃなくてもいい。
 でも、今の私には要人しかいなかった。

「ずっと私と一緒にいて」
「ああ」

 要人は私の体を抱き締めて、そのまま座った。
 今の私にとって、要人だけが、唯一安心させてくれる存在だった。
 こんなふうに、すがっては駄目だとわかっいても――孤独が、私を狂わせた。

「要人、私、寂しい――」

 何度も泣いたのに、まだ涙がこぼれる。

「そうだな……」

 両親を亡くした悲しみを共有できる人は、要人の他に誰もいなかった。
 私の両親を実の両親のように、慕ってくれていた要人も辛いはずなのに、私は自分の感情を抑えられず、孤独の中に溺れ、息ができないほどの悲しみに沈んだ。

「……要人」
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