社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 要人の両頬を掴み、その唇に自分の唇を泣きながら重ね合わせた。
 足りないぬくもりを埋めるように、人の熱を得るように、私は要人を求めた。

「志……茉……」

 要人は拒まず、私のつたないキスに応えて、何度もキスを繰り返した。
 何度目かのキスで、要人は私の体を押し倒し、タガが外れたように体を求めた。
 
 ――重なる影はふたつ。
 
 大きな手に触れられた体は、熱を持ち、生きていることを教えて、私に大きな安心感を与えてくれる。
 
「……かな……め……。もっと抱きしめて」
「……っ」

 要人の唇が、私の皮膚の上になぞり、赤い痕を残すたび、小さな痛みを伴う。
 自分の存在を刻みつけ、私に忘れさせないためのもの。
 耳から首筋へ、首筋から胸元へ――要人の感触を感じる。
 それが、心地よくて涙がこぼれた。
 その涙に気づいた要人は、舌で涙をすくい、舐めとる。

「志茉……俺は……」
「止めないで。このまま、私を奪って」
「止まれるわけ……ないだろ」

 気づくと、私と同じように、要人も泣いていた。
 要人が泣くところを私は初めて見た。
< 76 / 171 >

この作品をシェア

pagetop