社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「……大丈夫。学校にも通えるようになったし、私も独りに慣れていかなきゃいけないでしょ」

 志茉は俺との関係を幼馴染に戻すつもりなのだとわかった。
 もう戻れるわけない。
 戻れないのに、志茉は幼馴染でいたいと願っている。
 
「私……。あの時、どうかしてたの。冷静じゃなくて、要人、ごめん……ごめんなさい……」
「……俺は謝らない。中途半端な気持ちで、志茉を抱いたわけじゃない」

 志茉は涙をこらえ、俺にうなずく。
 なにか志茉は、俺に隠しているが、それを話す気はないらしい。
 頑固な志茉から、聞き出すのは難しいと知っている。

「俺がアパートにいると困るのか?」

 志茉は再び、うなずいた。
 噂を耳にしたか、それとも――視界の中に嫌でも入る仁礼木の家。
 仁礼木が志茉を追い詰め、温情とばかりに、ほんの少し隙を残したのだろう。
 志茉のためというより、俺を納得させるため、わざとそうしたのだ。
 完全に引き離せば、俺が仁礼木を捨てるだろうと、父は考えた。
 どちらも、こういうことには頭が回る。
 けれど、今、志茉から引き離されるわけにはいかない。
 
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