社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 とうとう私は、要人(かなめ)に誓約書の存在を打ち明けてしまった。
 莫大なお金を請求されたらどうしようとか、訴えられたら怖いと思ったけど、要人は、自分の家である仁礼木(にれき)相手に戦おうとしている。
 そんな要人を見て、私が思うのは、おばさんより要人のことだ。

「要人はいったい、なにをするつもりなの……?」
 
 正直言って、昨日の夜はあまり眠れなかった。
 要人になにか考えがあるのか、今日は朝から宮ノ入(みやのいり)の本社へ行き、不在だ。
 
「今日は朝から、要人さんがいないせいか、受付前を通る役員たちの笑顔が眩しかったわ」
恵衣(めい)。要人を鬼か悪魔みたいに言わないで」

 昼食も終わり、化粧室でメイクを直しながら、恵衣はそんなことを言った。
 恵衣は新しいマスカラを買ったのか、明るいブラウン系のマスカラに変わっていた。

「なに言ってるの。要人さんが優しいのは、志茉と一緒にいる時だけよ」
「そんなに要人はひどいの!?」 
「かなりのやり手っていうのもあるけど、ライバル会社を平気で罠にはめるし、嫌がらせをした相手は気がついたら、会社からいなくなってるし」
「なにそれ、ホラー?」
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