世話好き女子がクーデレ男子を愛育した結果



 あかりは蚊の鳴くような、今にも消え入りそうな声で総一郎の名前を呼び、背中に腕を回す。
 総一郎は、それに応えるようにあかりの背中に回す腕に力を込めた。


 シャツ越しに感じる柔軟剤の奥に香る総一郎の匂いを吸い込み、あかりは静かに嗚咽した。
 何年も何年も、誕生日を迎えるまでの苦しみを耐えて溜めた涙は、枯れることがなかった。


 思えばあの日、不審者に追われ、助けを求めることも出来ず小さくなっていたあかりを、総一郎がタオルケットごとやさしく抱きしめてくれたあの夜から、あかりの中に新たな光が灯っていた。



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