世話好き女子がクーデレ男子を愛育した結果



「お母さん、私ね、明日誕生日なの」

「忙しいのは分かってる。今だったら忘れられてもそれが悪いとも思わないし、仕方ないって割り切れる」

「けどね、ほんとはね、小さな頃、初めて誕生日を忘れられたあの日、すごくすごく悲しかったの」

「しっかりしてるねってお母さんは言うけど、私だって当たり前にしっかりしてたわけじゃないよ。……すごいね、頑張ったねってただ一言褒めてほしかったの」

「……ずっとずっと、お母さんが私の誕生日を忘れたあの日から、私、寂しくて苦しくて、たまらなかったの」



 静まり返ったリビングに、あかりの声だけが響いていた。
 電話の向こうの母も、一言も発さず。黙ってそれを聞いていた。


 そう、寂しかった。
 あかりの欲は、人のお世話をすること。けど、それが大きく見えすぎて、当たり前にあかりの中にあった、大切にされたいという心が隠れてしまっていた。


 誕生日の度に苦しくなり、それを隠すように人にいつも以上に尽くすことで、本当の心に気付かないふりをしていた。


 初めて言葉にして告白してみて、あかりの心はすっきりと靄が晴れるようだった。
 あれだけ母の反応が怖かったあかりも、今は伝えられた事で胸がいっぱいだった。



『……あかり』



 電話の向こうで母が静かに声を発する。
 あかりの肩がびくりと跳ねた。



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