世話好き女子がクーデレ男子を愛育した結果 1
「なっ……なにっ」
「……すみません。あの、お聞きしたいんですけど」
「えっ、は、はい」
振り返ると、白いシャツにスラックスの、ほっそりとした不健康そうな男が立っていた。勿論あかりは面識がない。
突然自転車の荷台を掴むという行動に、あかりの警戒心は上がる。
だが、何かを聞きたがっているんだからキチンと聞かなくては、というあかりのお人好しな性格が、その場に留まる決め手となった。
「今朝、バス停で、男を助けてましたよね」
「……はい、助けたというほど大それたことはしてませんけど」
「……男好きなの?」
「…………はい?」
「あんなに、ベタベタ触って……ネクタイまで外してっ……なぁ、なんでっ……俺のこと、前あんなに親切に助けてくれたのにっ……俺だけをっ」
「な、なにっ……?」
男は荷台から手を離すと、ゾッとするような狂った表情であかりを鋭く睨みつけ、頭を掻きむしっている。
そのあまりに異常な光景に、恐怖からあかりはその場に立ちすくみ動くことができない。
しかし、男の口が開き──。
「────あかりちゃん、なんで?」
教えてもいない名前を呼ばれた瞬間、あかりは自転車を勢いよく漕ぎ出していた。