純愛
今年の梅雨は本当に長くて、六月が終わっても雨は降り続けた。もうすぐ夏休みに入ろうとしているのに、このまま夏休みもずっと天気が悪いんじゃないかと、つばきは不機嫌だった。
そんなことよりも夏休みの宿題の心配をしなよってカンナがつばきに諭したりしていて、いつもと同じ風景だなぁなんて思った。

高校生になっても、カンナとの関係が「恋人」という肩書きに変わっても、俺達の日常は変わらず続いて、この先もこんな風に平凡に、当たり前に毎日が続いていくんだと思っていた。

カンナが「嫌がらせ」に遭うようになるまでは。

七月に入って、あと数日で一学期の終業式を迎えようとしていた頃だった。
カンナと一緒に登校した。いつもはカンナとつばきが二人で登校することが多いけれど、今日はつばきが日直で、いつもより早く家を出ていた。

学校に着いて、クラスの違う俺達は、それぞれのクラスの下足箱に向かった。一足分ずつ正方形に区切られた下足箱。それぞれの場所に小さい扉が付いている。
スニーカーから上靴に履き替える。この長い梅雨のせいで、白いスニーカーはだいぶ汚れてしまっている。

「カンナ?」

靴を履き替えた俺は、カンナを待っていたけれど、なかなかカンナのクラスの下足箱の所から出てこない。俺はそっちの方まで行って、カンナの後ろ姿に声をかけた。

華奢な肩が少し、ビクッと跳ねた様に見えた。

「どうした?」

俺がもう少し近づくと、カンナはパッと振り返って、何でもないよ、と笑顔を作った。
何かの紙切れをクシャッと手の中で丸めて、制服のスカートのポケットに押し込んだのを、俺は見ていた。カンナは明らかに嘘をついている。
笑顔が引きつっているし。

「何?なんかあった?」

俺は心配になって問い詰めたけれど、カンナは頑なに首を横に振った。

「そう?なんかあったら言えよ。」

あんまりしつこいと嫌がられるかもしれないと思い、俺は一旦引き下がることにした。カンナもありがとうって言って、笑っている。
何かを隠したことは明らかなのに、俺はモヤモヤした気持ちのまま教室に向かった。
カンナはホームルーム前にやることがあるから、とさっさと自分の教室に入っていってしまった。

やっぱり俺の中ではカンナの不自然な笑顔が引っかかっているし、俺に言えないことってなんだろう。スッキリしないまま、教室に入った。

既に登校していたつばきと目が合った。一生懸命、朝の分の日誌を書いている。つばきは俺の方には来なかった。ただスッと俺に目を合わせただけで、無表情のまま、また日誌に向き直った。
つばきもまた、何かが引っ掛かる様な目をしていて、俺のモヤモヤは強くなった。
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