純愛
昼休みになって、つばきが弁当箱の入ったランチバッグを持って、俺の所にやってきた。

「とーか君、ご飯行こー。」

「お前さぁ、なんか今日、変じゃない?」

「変、って?」

ランチバッグを片手でブラブラさせたまま、つばきはキョトンとした。

「朝、なんか言いたそうに俺のこと見てなかった?」

「何それ、自意識過剰?」

つばきはからかう様に言いながら笑った。

「そんなんじゃねぇよ。ただ、カンナも朝から様子が変なんだ。」

朝、教室の前で別れったきり、カンナには会っていない。クラスが違うと時間割も違うし、移動教室もあったりするから、用事が無い限りあまり顔を合わせない。今朝のことがやっぱり気になって、休み時間のたびにカンナの教室の前まで行ってみたけれど、案の定話せる時間は無かった。

二時間目の終わりに自分の席で本を読んでいるカンナを見つけたけれど、集中しているみたいだったから、声をかけられなかった。
カンナは図書室をよく利用している。最近も、童話の小説を借りたと言っていた。カンナは小さい頃から童話が好きだ。つばきが傍でどれだけ騒いでいても、ジッと童話の世界にのめり込んでいることも多かった。

結局話せないまま、昼休みになってしまった。今朝のことだから、つばきに聞いても分からないだろう。

「気になるなら聞けばいいじゃん。早くカンナちゃんも誘ってご飯食べようよ。お腹ペコペコだよ。」

つばきは自分のお腹をさすりながら言った。

「はいはい。」

言いながら、俺も席を立った。教室を出たら、カンナも自分の教室から出て、ドアの前で待っていてくれた。

「遅いよ。」

カンナが俺とつばきを見て笑っている。俺はなんだかすごくホッとして、やっぱり俺の考えすぎかもなんて思った。

「カンナちゃーん。お待たせ。」

つばきが嬉しそうにカンナの腕を取って、グイグイ歩いていく。そんなつばきの姿に少し嫉妬しながらも、後ろをついていく。
つばきみたいな無邪気さは、俺には無い。つばきの人懐っこさが羨ましかった。
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