純愛
夕方になって、部屋でこれからのことを考えているうちに、うとうととしてきた。開けた窓から流れ込んでくる風が、熱を含んではいるけれど心地いい。夕方から夜になる頃は、冷房を付けるよりもこれくらいの方が好きだ。

「透華ー!つばきちゃん来てるわよ。」

階段の下の方から母さんが呼んでいる。「つばき」という言葉に、心臓がドクン、と跳ねた気がした。
なんで…?何をしに来たんだろう。これからつばきにどうやって話をするか、どういう付き合い方をしていくか、俺の頭の中ではまだ何も綺麗にまとまっていないし、まさかつばきの方からやって来るとは思っていなくて、心臓がドクドク鳴った。あまりにも行動が早すぎる。

俺は自分の部屋のドアをそっと開けて廊下に出て、吹き抜けになっている玄関を見下ろした。
つばきがひらひらと俺に左手を振っている。取って付けた様な笑顔を貼りつけて。

母さんに促されて、つばきは「お邪魔します。」と言いながら家の中に上がった。そのまま階段をのぼって来る。
俺は大きめの声で母さんに「大事な話だから何も持って来なくていいから!」と言って部屋に入った。つばきもすぐに階段をのぼり切って、俺の部屋に入って、ドアをしっかりと閉めた。

「久しぶりだね。とーか君の部屋。」

つばきが懐かしむ様な目をして、グルっと部屋を一周見回した。

「そんなに見ても昔と対して変わってないだろ。座れよ。」

俺は勉強机の椅子に座ったままで、視線だけでベッドにつばきを促した。俺の部屋にはクッションとか座布団とかは無いから、友達が来てもそこに座るか、地べたしかない。事前に聞いていればさすがに座布団くらいは用意するけれど。

つばきはベッドにふわっと座った。

「カンナちゃんに怒られちゃうかな。」

「別に。気にしないだろ。」

にこにこと楽しそうなつばきの声にも、心無しか素っ気なく返してしまう。つばきは全然気にしていないみたいだけど。
それどころか楽しそうに、俺に紙袋を差し出してきた。

「これ、持ってきたの。あげる。」

「何?」

つばきは座ったばかりなのに立ち上がって、俺が座っている方へ近づいてきた。
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