純愛
土砂降りの小道。晴れの日よりも畑の肥料のにおいも抑えられている気がする。
田舎臭いこの畑のにおいも、夏が近づくと増える赤潮のにおいも、人付き合いが濃すぎる隔離された様なこの町も、俺は嫌いだ。
大人達は感謝しなさいなんて言うけれど、農家が有難いことも、町全体が子供達を守っているんだということも、俺達にはまだ分からない。分からないふりをしているのかもしれない。

こんな田舎の町、早く出ていこうよと、カンナやつばきと何度も何度も話した。高校に通うのだってバスで一時間。そのバスだって、一時間に一本。
街の方に出ればコンビニもゲームセンターも映画館も、お洒落なお店も数え切れないくらいあって、だけどこの町には一個も無い。
コンビニだって自転車で二十分はかかる隣町だし、個人の商店と駄菓子屋さん、自動販売機があるくらいだ。個人の商店だってもちろん有難いけれど、顔馴染みすぎて、中学を卒業してからは気恥ずかしさの方が勝って、あんまり行けなくなった。
街灯も少なければ、ネオンと呼べる物すら無いこの町は、夜だって早い。

土砂降りの雨がアスファルトで跳ね返っては、俺の白いスニーカーを汚していく。つばきもローファーの中がグショグショだと、さっきからブーブー文句を言っている。そのローファー以上に、俺もつばきももう、体半分がびしょ濡れだった。
< 3 / 100 >

この作品をシェア

pagetop