純愛
それから一週間が過ぎた。つばきからの連絡や、家にやって来ることは、あの日以来無い。
カンナとはほとんど毎日図書館で会って、夏休みの宿題をやっている。

あの日のことは、カンナには軽くしか話していない。カンナの花の球根のこと、つばきが嫌がらせをしていることを、ほぼ認めていること。詳細は話していないけれど、つばきには気をつけた方がいいということ。

それでもカンナは、つばきとちゃんと話し合いをしたいと言い張った。本当にもう、俺達の知っているつばきは居なくなったなんて思いたくないと。こんなに突然壊れてしまうような時間を過ごしてきたわけじゃないと。カンナは今でもつばきを信じている。
俺だって出来ることならつばきを信じたかった。何がつばきをここまで壊してしまったのか。それが俺達三人だけで解決出来るような心のすれ違いなのか。つばきが本当に望んでいることは、一体何なのか。

だけど考えても考えても答えは出なくて、解決策も何も浮かばないし、何より恐怖心が消えてくれなかった。あの日のことを思い出すだけで胸がムカムカする。

「ねぇ、透華くん。」

読書感想文を書いていた手を止めて、カンナが作文用紙から俺の方に視線を向けた。向かい側に座っているカンナの作文用紙は、もう二枚目の半分くらいまで進んでいる。俺の作文用紙にはまだ一文字も書かれていない。
カンナは普段から沢山本を読んでいるから、わざわざ図書館まで来なくても読書感想文くらいさっさと終わらせられるだろうけれど、俺に付き合って図書館まで来てくれた。
俺はというと、本を読むどころかつばきのことばかりが気になって、本の上に視線を滑らせているだけで、何も頭には入ってきていない。

「カンナ、どうした?」

「あのね、来週の夏祭り、三人で行かない?」

「え…。」

毎年、地元では八月の最初に夏祭りがある。遠足で使われる公園だ。遊具がある方の広場は使われないけれど、併設されているグラウンドが結構広くて、出店や催し物もある。大きい街の花火大会みたいに花火は上がったりしないけれど、地元の人はほとんど遊びに来ている。
春になればお花見と称した町民だけの運動会も催されて、町の老人会や自治会の大人達が張り切っている。こんな田舎町の、唯一のイベントだ。
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