純愛
「私からつばきを誘ってみるよ。」

カンナの瞳には、いつもの毅然とした色が宿っている。終業式の日の、あの泣きそうな目はしていない。

「でも…。危なくないかな。」

「透華くん。たぶんそれじゃあ駄目なんだよ。つばきも引き下がれなくなってるんじゃないかな。きっと私達が思うよりも大事な理由があったはずだよ。もちろん、つばきがやったことは絶対に許されないことだけど、私はこのままつばきを失くしてしまう方が嫌だな。つばきがちゃんと話してくれるなら、こんなことをやった理由に…少しでも改善の余地があるなら、私はつばきを許したい。」

カンナは優しい表情をしている。
もし「やられた」のが俺だったら、カンナみたいには思えない。理由が何であれ許せないと思うし、今までの関係を取り戻せるとも思えない。
それでも、カンナの言うことも理解できる。
我が儘だったり、自我が強かったり、俺やカンナみたいに幼馴染じゃなければもっと爪弾きにあっていても仕方のないようなこと、それも含めて「つばき自身」なんだと容認してきた責任だって、俺達にはあった。

つばきがやったことの不快感だけで、今の俺は嫌悪感を抱いている。だけど、つばきにだって理由はあったはずだ。その理由から、行動が行き過ぎていたとしても。

「分かった。俺も、戻れるなら戻りたいよ。」

カンナはほっとした表情を浮かべて、ありがとうと言った。

「また前みたいに戻れたらさ、つばきの宿題も根気よく手伝ってあげようね。」

悪戯っ子の様な笑顔を浮かべてカンナは微笑んだ。カンナの優しさや無邪気な笑顔。俺が好きになった人は、こんなにも愛に満ちていて、越えられそうにない壁も諦めたりしない。
この人を好きになって良かったと、心から思った。

「カンナ、好きだよ。」

今は全然関係の無いことが口をついた。

「何?聞こえなーい。」

照れ隠しなのか、カンナは置いていたペンを握って、また作文用紙の上に文字を書き始めた。
久しぶりに感じた「幸せ」だという感情を、絶対に忘れたくないと思った。
< 34 / 100 >

この作品をシェア

pagetop