純愛
十八時前に地元に帰ってきた。カンナを家の前まで送って、手を振って別れる。

「つばきから返事きたら連絡するね!」

歩き出した俺の背中に向かってカンナが言った。俺は振り返って、頷くだけで返事をして、また歩き出した。
カンナが振り絞った勇気を無駄にしない様に。大丈夫、大丈夫と心の中で唱えていた。
俺がカンナを守るって誓ったのに、結局カンナの方が先に動き出したことが、情けなくてしょうがなかった。カンナはこんな俺のこと軽蔑するかな。こんなことで怖気付いてしまう様な男なんて、これから先カンナに不安しか与えないかもしれない。

俺がしっかりしなきゃ。去年までの楽しかった夏休み、幸せだった、中学を卒業する前のことを思い出した。
こんなことで終わらせちゃいけないんだ。
立ち止まって、カンナの家の方を振り返った。カンナの姿はもうそこには無い。
ギュッと手のひらを固く結んで、深呼吸をして歩き出した。

その日の夜、カンナから電話がかかってきた。

「つばき、一緒に夏祭り行きたいって。」

カンナの声は心無しかホッとしている様に聴こえる。

「三人で?」

「もちろん。それでね、話もちゃんとするって約束してくれたよ。」

「そっか。良かった。カンナ、ありがとうな。」

「ううん。透華くんだってずっと悩んでくれてたんだよね。ありがとう。」

まだつばきとのことは解決したわけじゃないけれど、一歩前進出来たと思った。全部、カンナが勇気を出してくれたからだ。
ありがとう、と言い合って電話を切った。

一週間後の夏祭り。
何を、何から話そう。ちゃんと話せるか、正直自信は無い。それでもこの時を逃せば本当にもう元には戻れない気がした。
頭の中で何度も何度もつばきと話すことを考えては取り消して、考え直してを繰り返した。
もう夏休みは何日も過ぎているのに、夏休みを待つ子供みたいにソワソワした。
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