純愛
「とーか君。」

つばきは俺のことを「とーか君」と、ちょっと間延びした様に呼ぶ。同じ呼び方でもカンナが呼ぶ「透華くん」とは違う雰囲気だ。
カンナの呼び方は正式名称って感じで、つばきの呼び方は何て言うか…ゆるキャラみたいな。

「お前さぁ…、その呼び方そろそろやめろよ。もう高校生なんだから。」

「え?何が?」

「その、とーか君、っていうの。」

「カンナちゃんだってそう呼ぶじゃん。」

「カンナは違うだろ。もっとこう…キリッとしてるっていうか。」

舞台俳優の様に、傘を持っていない方の手を天に掲げながら「キリッ」を表現したら、つばきは呆れた目で俺を見た。

「何が違うのよ。ほんと…カンナちゃんばっかり贔屓してさ。」

「贔屓なんか…!」

「ねぇ、そんなことよりさ、ちょっと雨宿りしていこうよ。」

つばきが目の前の古びた納屋を指差した。この畑の所有者のお爺ちゃんが物置小屋として使っている。近所に住む、腰の曲がった小さい、優しいお爺ちゃんだ。
小屋には雨宿りが出来るくらいのトタン屋根が付いている。そこで雨宿りしていこうとつばきが指差した。

「いや、もうあとちょっとじゃん。」

つばきの家まであと百メートルも歩けば着くし、俺の家だってもうすぐだ。

「いいじゃーん。二人で帰るのなんて久しぶりなんだしちょっとお喋りしようよー。」

「学校でも話せるだろ。早く着替えたいんだよ。」

「学校では二人で話すことなんて滅多にないじゃん!ちょっとだけ!ね!」

つばきは全く引き下がらない。なんで二人で話す必要があるのかも分からない。それでもつばきは強引に俺の腕を引いて、納屋の方に行こうとする。もう全然傘の意味も無くて、つばきはどんどん濡れていった。
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