純愛
「酸素だって送ってないだろ。」

絞り出した俺の声は掠れていた。

「酸素?」

初めて聞く言葉みたいに、不思議そうなつばきの声が静かに、けれどその声だけが脳内で鳴っている。

「このケースに入れただけで、酸素なんて与えてないだろ。そんなの死んじゃうに決まってるだろ。」

「ねぇ。」

少しだけ、いや、ハッキリと怒りを感じる色を混ぜたつばきの声に、俺は顔を上げた。つばきのあの目が、得体の知れない光を宿した瞳が、俺を見ている。

「押し付けたのは、とーか君とカンナちゃんでしょう?」

「押し…つけた…?」

「そうだよ。私、金魚を買える水槽持ってるなんて一言も言ってないよね?ただ金魚をすくいたかっただけだよ?飼いたいなんて一言も言ってない。それを私に押し付けたのは二人じゃない。酸素も餌も知らないよ。でもまあ…いいや。」

聞いたことのない、激しい声の後に、静かに言って、つばきは息を吐き、笑った。

「上手に泳げる魚だって溺れて死んじゃうんだから、泳げない人間が水の中でなんて生きていけないよね。」

「どういう意味だよ…?」

意味の分からないことを言うつばきに問いただしても、その答えをつばきは言わなかった。
その代わりに、また「お葬式だよ。」って言った。

「お葬式しなきゃ。とーか君の責任でもあるんだから、参列してくれるよね?あぁ、カンナちゃんのおうちにも行ったんだよ。でも留守だった。お出掛けしてるのかな。」

さっきまでのつばきはどこに行ってしまったのか、またニコニコと笑っている。俺はポケットからスマホを取り出した。それをつばきが静止した。

「カンナちゃんはもういいから。この子達のお墓、作りに行こうよ。」

「…どこに。」

「海。」
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