純愛
船着場の防波堤に作られた石の階段を登って、海岸の方へ渡った。ゴロゴロとした石や大きい岩が転がっている。数年前の台風の日、土砂崩れが起こって、元々は小さい石ころや砂浜がメインだった海岸が、崩れた崖で出来た岩や石がメインになった。砂浜は半分以上、姿を消してしまった。

ゴロゴロとした石の上を歩きながら奥に進んでいけば、砂浜が多く残っている場所もある。その一ヶ所でつばきは立ち止まって、「ここにしよう。」と言った。

しゃがんで、持っていたアクリルのケースを置いた。つばきは素手のまま、砂を掘り始めた。金魚を埋めるだけだからと、深くない砂の穴を作って、また素手のまま水の中から一匹ずつ金魚をすくい上げて、そっと穴の中に置いていく。
その光景を、俺は黙って見ていた。昨日の夜よりも、金魚の赤は薄く見えた。灯りをキラキラと受けていたあの姿は、もうどこにも無い。

三匹とも穴の中に入れて、その上からまた砂をかけていく。小さい山型になるまでかけてから、傍に落ちている適当な石を取って、その山型の墓の上に置いた。

「満ち潮になったらすぐ流されるぞ。」

俺が言った。つばきは「いいの。」と返した。

「金魚は淡水魚だから海では生きていけない。」

そう言った俺に、つばきはクスクスとおかしそうに笑って、言った。

「もう死んでるよ。」

冷たく、愛情なんて感じない口ぶりだった。

「三匹一緒なんだからいいじゃない。離ればなれじゃないだけマシよ。」

そう言って、つばきは手を合わせた。何を考えているかは分からない。確かにつばきに金魚を持って帰らせたのは俺とカンナだ。反論は出来ない。つばきが金魚を飼育出来る環境を持っていたか、知っていたかなんて、正直考えてもいなかった。
なのに、つばきが取った行動は、もしかしてわざとなんじゃないかとか、今だって嫌がらせの延長線上にあるんじゃないかとか考えてしまう自分がいた。

昨日の約束が、つばきのあの姿が夢だったとしたら、今目の前にあるこの金魚の墓だって、存在しない。
昨日の夜の出来事は現実で、三人で誓った約束だって嘘じゃなくて、だけど、その約束があっさりと崩れ去った気がした。
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