純愛
畑の道、個人経営の商店、公園からグラウンドに続く道を抜けて歩いていく。船着場の目の前は坂道になっていて、太陽の熱を受けて、陽炎が立っている。
坂道を下っていくと、船着場が見えてきた。そこにつばきの姿は無い。
「海岸の方かな。」
言いながらカンナは石階段を登る。その後ろから続いて俺も階段を登った。防波堤の上から海岸も、船着場も、少し遠くの川やテトラポットも見渡せる。風は生ぬるいけれど、不快だとは思わなかった。
「居た!つばきー!」
カンナがつばきを見つけて大声で呼んだ。つばきは浅瀬から少しだけ奥の方、膝の辺りまで海に浸かっていた。離れていても青い空と揺れる水面に映える、真っ白のワンピース。
裾が濡れることも気にしないで、つばきは腕を上げて、俺達に手を振っている。
「あいつ…何やってんだよ。あぶねーな。」
俺は海岸の方へ石階段をくだって、ゴロゴロとした石の上を走った。ビーチサンダル越しにゴツゴツとした石の感触が伝わってくる。
「透華くーん!転ばないでねー!」
防波堤の上からカンナが叫んでくる。振り返って手を振ることで返事をした。
女優が被るみたいな、ツバ広のサマーハットがよく似合っている、なんて思いながら。
浅瀬まで来て、足の甲くらいまで水に浸かる。ちゃぷん、ちゃぷんと波が触れては返っていく。
冷んやりしていて気持ちがいい。
「おい、つばき!何やってんだよ、危ないだろ。」
つばきは海から何かをすくう様な仕草をしながら、俺の方へ近づいてきた。
と、同時にボールを投げる時みたいに腕を振りかぶって、俺に向かって何かを投げた。
「うわっ。」
投げられた物の正体はよく見えなかったけれど、俺は咄嗟に体を右へ逸らした。
ちゃぷん、と小さく音を立てて、傍に落ちた物。透明でゼリー状。ふよふよと水面に浮いている。
くらげだ。金魚と同じ。泳いでいるんじゃない。死んでいる。
つばきの方を見ると、クスクスとおかしそうに笑っている。
「何だよ、これ。」
「くらげだよ。」
「素手で触ったりするなよ。何でそんな危ないことばっかりするかなぁ…。」
「大丈夫だよ。死んでるもん。」
「大丈夫なんて保証は無い。それにお盆過ぎの海に入るなよ。ただでさえ泳げないくせに。」
つばきに文句を言いながら、水面によく目を凝らして見た。
透明のふよふよしたクラゲが浮いているのが分かる。
専門家じゃないから詳しいことは分からないけれど、お盆が過ぎるとくらげが増える。死んだくらげが浮いている様子も、俺達には珍しいことじゃなかった。くらげが増えて危険だから、お盆過ぎに海に入っちゃ駄目って教えもあるんだと思う。
「海だろうが川だろうがビニール袋だろうが、どこで産まれてどこで生きても、死んじゃうんだね。」
目の前まで来たカンナのワンピースは、裾がほとんど濡れている。そのワンピースに負けないくらい、白くて透けそうな肌は、夏とは結びつかない。
「つばきー!透華くん!上がっておいでよ!」
カンナが浅瀬の方から俺達を呼んだ。俺もつばきも、素直にその声に従った。
「一枚しか無いから順番ね。」
カンナがつばきにタオル生地のハンカチを差し出した。
つばきが受け取って、足をサッとだけ拭いて俺に渡してくる。
「俺はいいよ。すぐ渇きそうだし。」
そう言ってカンナにハンカチを返した。ふわっと、カンナの洋服と同じ香りがした。
坂道を下っていくと、船着場が見えてきた。そこにつばきの姿は無い。
「海岸の方かな。」
言いながらカンナは石階段を登る。その後ろから続いて俺も階段を登った。防波堤の上から海岸も、船着場も、少し遠くの川やテトラポットも見渡せる。風は生ぬるいけれど、不快だとは思わなかった。
「居た!つばきー!」
カンナがつばきを見つけて大声で呼んだ。つばきは浅瀬から少しだけ奥の方、膝の辺りまで海に浸かっていた。離れていても青い空と揺れる水面に映える、真っ白のワンピース。
裾が濡れることも気にしないで、つばきは腕を上げて、俺達に手を振っている。
「あいつ…何やってんだよ。あぶねーな。」
俺は海岸の方へ石階段をくだって、ゴロゴロとした石の上を走った。ビーチサンダル越しにゴツゴツとした石の感触が伝わってくる。
「透華くーん!転ばないでねー!」
防波堤の上からカンナが叫んでくる。振り返って手を振ることで返事をした。
女優が被るみたいな、ツバ広のサマーハットがよく似合っている、なんて思いながら。
浅瀬まで来て、足の甲くらいまで水に浸かる。ちゃぷん、ちゃぷんと波が触れては返っていく。
冷んやりしていて気持ちがいい。
「おい、つばき!何やってんだよ、危ないだろ。」
つばきは海から何かをすくう様な仕草をしながら、俺の方へ近づいてきた。
と、同時にボールを投げる時みたいに腕を振りかぶって、俺に向かって何かを投げた。
「うわっ。」
投げられた物の正体はよく見えなかったけれど、俺は咄嗟に体を右へ逸らした。
ちゃぷん、と小さく音を立てて、傍に落ちた物。透明でゼリー状。ふよふよと水面に浮いている。
くらげだ。金魚と同じ。泳いでいるんじゃない。死んでいる。
つばきの方を見ると、クスクスとおかしそうに笑っている。
「何だよ、これ。」
「くらげだよ。」
「素手で触ったりするなよ。何でそんな危ないことばっかりするかなぁ…。」
「大丈夫だよ。死んでるもん。」
「大丈夫なんて保証は無い。それにお盆過ぎの海に入るなよ。ただでさえ泳げないくせに。」
つばきに文句を言いながら、水面によく目を凝らして見た。
透明のふよふよしたクラゲが浮いているのが分かる。
専門家じゃないから詳しいことは分からないけれど、お盆が過ぎるとくらげが増える。死んだくらげが浮いている様子も、俺達には珍しいことじゃなかった。くらげが増えて危険だから、お盆過ぎに海に入っちゃ駄目って教えもあるんだと思う。
「海だろうが川だろうがビニール袋だろうが、どこで産まれてどこで生きても、死んじゃうんだね。」
目の前まで来たカンナのワンピースは、裾がほとんど濡れている。そのワンピースに負けないくらい、白くて透けそうな肌は、夏とは結びつかない。
「つばきー!透華くん!上がっておいでよ!」
カンナが浅瀬の方から俺達を呼んだ。俺もつばきも、素直にその声に従った。
「一枚しか無いから順番ね。」
カンナがつばきにタオル生地のハンカチを差し出した。
つばきが受け取って、足をサッとだけ拭いて俺に渡してくる。
「俺はいいよ。すぐ渇きそうだし。」
そう言ってカンナにハンカチを返した。ふわっと、カンナの洋服と同じ香りがした。