純愛
「何やってたの?」

「生態系の観察。」

「夏休みの自由研究?」

「違うよ。興味本位。」

「何か分かった?」

「生き物はどこで生きてても、結局死んじゃうってこと。」

カンナはつばきの答えにきょとんとしている。正しい反応だと思う。

「そんなの当たり前だろ。生きてるものはいつか死ぬ。絶対に。」

呆れた顔で言う俺を、カンナが「言い方が乱暴よ。」と嗜めた。つばきは何も言わずに、ただ一言、俺の顔を見て「無くなってたよ。」と言った。

「何が?」

足の裏やくるぶしについた砂が気持ち悪くて、もう一回波で洗い流そうかと思っていた。やっぱりカンナのハンカチを借りれば良かった。

もう一度海の方へ向かおうとしている俺の腕を、つばきが掴んだ。振り向いた俺に、つばきは無表情な顔で言った。

「金魚のお墓。」

「…あぁ。」

やっぱり、満ち潮になって流されてしまったのだろう。波に攫われていく山型の砂のお墓。海の中で離ればなれになってしまった金魚の死骸を想像して、すぐにやめた。

「お墓…って?」

カンナが戸惑いの声を上げる。

「あぁ。カンナちゃん、知らなかったっけ。まぁ、カンナちゃんは知らないままでいいよ。」

「どういうこと?話してよ。」

「ううん。いいの。知る必要が無いから。」

「ちょっとつばき…!」

つばきが急に走り出して、石階段を登って行ってしまった。追いかけようとした俺の腕を、今度はカンナが掴んだ。

「つばきは、何を言っていたの?」

カンナの表情から戸惑いの色は消えない。俺の腕を掴んだ指が微かに震えている。
掴まれていない方の手で、カンナのもう片方の手を握り返した。掴んでいた俺の腕を、カンナは離した。

そのままカンナの手を引いて、あの日つばきが作った金魚の墓があった場所に連れていく。
その場所には、小さく開いた穴が祠の様になっている崖があったから、目印としてよく憶えていた。

つばきが言った通り、金魚の墓は綺麗に無くなっている。
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