純愛
「ねぇ、とーか君。」

「何。」

雨が作る沢山の水溜りをぼんやり眺めて、なかなか止みそうにないななんて考えながら、俺はぶっきらぼうに返事をした。

「夏休みになったらさ、みんなで避暑地行こうよ。」

「避暑地って?」

「んー、キャンプ場でコテージ借りて泊まるとか、ちょっといいリゾート地とか?」

「ちょっといいリゾート地ってどこだよ。それにそんな所、子供だけで行けるわけないだろ。」

つばきの言うことはいつもふわっとしていて、夢や希望だけを語っている様に聞こえる。それが悪いっていうわけじゃない。ただ、俺達はまだ、どうしたって子供だ。子供が語る夢や希望にしては、つばきの言うことは非現実的すぎた。
この町を出るだけでこんなに苦労するのに。俺達の知っている繁華街以上の場所なんて、想像も出来ない。

つばきのしたいことが全部叶うなら、それがどんなに素晴らしいことか、俺だって分かっている。
だけど、俺達はそれを叶える力も環境も持っていない。それが現実だ。悲しいくらい、当たり前の。

「じゃあ庭で花火してお泊まりとか、船に乗って海水浴場とかさ。」

「海ならそこらへんに嫌っていうほどあるし、そもそも海水浴場なんて行ったって泳げないだろ。カンナもお前も、俺も。」

「泳ぐだけじゃないじゃん!ビーチボールで遊んだり、焼きそば食べたり、波打ち際で遊べることだっていっぱいあるもん!」

つばきは見慣れた膨れ顔を作って、駄々をコネる。その膨らんだ頬っぺたを手でプシュっと潰して、「子供だな。」って言ったら、つばきは完全に拗ねて俯いた。
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