純愛
体中が震えてしょうがなかった。内臓も全部震えているんじゃないかと錯覚するほど、気持ちが悪い。体の震えを隠すように、左腕を右手でギュッと握った。右手も僅かに震えていて効果は無い。

つばきの落ち着きようが恐ろしくて堪らない。親友が、幼馴染が目の前で死んでしまったのに、もっと動転して普通なのに、なんでこんなにも平静を保っていられるのか。

本当に事故なんだろうか。そんな時間の、あんな場所に誰にも内緒で呼び出して、そして筋書き通りとも言える状況で、目の前で、「カンナだけに」起こる事故なんて、そんなこと本当にあり得るんだろうか。

でもまさか…、事故じゃなかったとしたら。
それこそ、そんなドラマみたいなこと…。

「話したかったことって何…。」

喉がカサついて不快で仕方ない。出来ればもう、喋りたくなんかない。

「秘密に決まってるでしょ。今のとーか君には話してあげない。本当のこと…カンナちゃんの本当の最期のこと、とーか君にだけは教えてあげようって思ってわざわざおうちまで言ったのに、もう教えてあげないよ。」

やっぱりつばきは何か知っているんだ。事情聴取で警察にも話していない何かを。疑惑が確信に変わっていく。体がスッと冷えていくのを感じた。

「私もさ、あれから何時間も家に帰れてないんだよね。お風呂にだって入れてないし、こんな姿で外に居るの、結構苦痛なんだ。」

「つばき。」

「ねぇ。」

つばきは俺の言葉を待たないで、またあの夏休みの始まりの日みたいに、体が触れそうな距離に近づいてきて、言った。

「カンナちゃんの血の色は、どんな赤だったんだろうね?もう一生見れないけど。」

スッと体を引いたつばきは、怖いくらいに無表情で、同じ人間とは思えなかった。

「つばき…一個だけ教えてくれ。カンナから、りんご飴は受け取った…?」

「…あぁ。花火大会の。要らないって突き返しちゃった。二人の思い出のお土産なんて、欲しくないよ。」
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