純愛
「お前…。そんなことの為に、俺は人殺しなんかしない。」

「そんなことなんかじゃないって言ってるじゃん。」

「そんなことだよ。お前が本当に俺を好きだって言うんならそれは偽物だ。お前は自分の私利私欲の為だけにカンナの命を奪ったんだ。そんなくだらない感情でカンナを…。カンナのおじさんやおばさんからも、友達からも、俺からも…!お前がやったことで誰かが幸せになったか!?誰かが救われたのか!?違うだろ…。誰かの命を奪ってお前が手に入れられる物なんて一つも無いんだよ。」

体育館から聴こえてきていた校歌はいつの間にか終わっていた。
つばきが肩を押さえる俺の手を払い除けた。

「だから、何?」

つばきが屋上の扉の方へ歩き出す。

「つばき…!」

後を追った俺の声に振り向いたつばきの頬には、涙が流れている。

「とーか君。そんな言葉、偽善だよ。何を犠牲にしてでも、私はとーか君が好き。本当だよ。カンナちゃんは死んだ。警察の人達のことだって、私は上手に騙した。カンナちゃんは事故で死んだの。それはもう、変わらない。とーか君、このことは二人だけの秘密にしようよ。じゃなきゃ私、また何しちゃうか分かんないよ。」

つばきが扉を出ていく。階段の下からは始業式が終わったのだろう、屋上に上がってくる吹奏楽部の人達の声が聞こえる。

タイムリミットだった。

「つばき…!俺に言った、カンナの花が咲かなかったら落ちてもらうって、あれは何だったんだ!?」

つばきは階段の途中で振り返った。

「椿の花が枝から落ちるみたいに、カンナちゃんにも落ちてもらうからって言ったの。」
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