純愛
最近はずっと、自分の部屋だけで過ごしている。
カンナが死んで、残りの夏休みはほとんど外には出なかったし、久しぶりに外に出た体はひどく疲弊している。

始業式が終わって、滅多にやって来ないバスを二本、目の前でやり過ごした。あんなに部屋から出たくなかったのに、一度出てしまえば今はあの町に戻ることが怖い。

ようやく乗ったバスは電車みたいに一個一個の停留所に停まっては乗車客を増やしていき、座席は全部埋まって、立っている人でもいっぱいになった。

そしてそれが嘘だったみたいに、通っていた中学校に行く為の停留所を過ぎる頃にはバスはガラガラになった。

自宅に帰ってきてすぐに自分の部屋に閉じこもった。制服のままベッドに倒れ込む。
思いっきり呼吸を繰り返す。体中に酸素を補充するみたいに。

つばきの言葉がグルグルと鎖の様に俺の体に巻きついているみたいだった。
どれだけ考えても理解できることなんて、やっぱり無い。つばきのことは絶対に許せない。

けれど、もしも一つだけ理解できることがあるとすれば、人を殺したいほど憎いと思う感情だ。

つばきは、そんなことで人殺しなんてしないと言った俺を偽善だと言った。好きな人が自分の物になるなら何だってすると。

始業式の後のホームルームが終わるまで、バスに乗り込むまで、バスが地元の停留場に着くまで、何度も何度もつばきの言葉を反芻した。
自分の気持ちを自分の中で確かめた。

俺の感情が本当に偽善なのだとしたら、そんな偽善は捨ててしまおう。つばきの言う通り、例えその感情が私利私欲だとしても、自分にとって本当に大切な物を守る為に人を殺しても許されるのなら、俺は喜んで悪魔になろう。

警察は本当につばきの罪に気づいていないのだろうか。プロの目を誤魔化し通せるとは思えない。
けれどもう、カンナの体は燃やされてしまった。俺には何も分からないけれど、少なくともつばきはまだ、俺の目の前に居る。

警察が動き出すまで。周りの大人達が気づいてしまう前に。

俺はこの手で復讐をやり遂げる。
この事実が二人だけの秘密であるうちに。
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