純愛
翌日、教室に入ると目が合ったつばきがあからさまにそっぽを向いた。これは長引くかもなぁなんて思いながら席に着こうとしていると後ろから肩を叩かれた。

「カンナ。おはよう。」

振り向いたらカンナが子供を叱る時の親みたいな顔をして立っていた。

「おはよう。透華くん。」

滑舌良くスッと言ったカンナの口調は、アナウンサーか何かになりきってるみたいな口調でちょっと面白かった。

「何、その口調。」

カンナはちょっとだけ目を細めて、まだ「怒ってますよ」って表情を崩さない。

「ちょっと来て。」

カンナに促されて、俺とカンナは教室を出た。俺とつばきは同じクラスだけど、カンナだけは離れてしまった。学校で話をする時は、教室以外ですることが多い。
カンナに着いて行くと、カンナは一年生の教室がある二階と、二年生の教室がある三階の階段の間、踊り場の所で立ち止まった。

「どうした?何か怒ってる?」

「昨日、つばきに何言ったの。」

「何って?」

「昨日、二人で帰ったでしょ。その時つばきに何か言った?昨日の夜電話しても、今朝迎えに行った時もずっと拗ねた態度だし、仲間外れにしたいなら構わないでよなんてあの子言うのよ?何でつばき、そんなこと言うの?」

そのことか、と思い、俺は軽く溜め息をついた。カンナの前でもその態度のままなら、やっぱり思った以上に怒っているらしい。

「何って…別に悪いことは。」

俺は昨日の一部始終をカンナに話した。自分の発言も、つばきの言い分も、全部そのままに。
聞き終えたカンナは、俺よりも大きめの溜め息をついて、「そりゃ拗ねるわよ。」って呟いた。
< 8 / 100 >

この作品をシェア

pagetop