純愛
「あのね、透華くん。透華くんが思うよりも思春期の女の子は過敏で傷つきやすいのよ。」

カンナが急に先生みたいな口調で、俺を諭す様に言った。

「傷つく様なこと言ってないだろ。」

「本当にそう思ってるなら、透華くんがちゃんと理解するまで私、透華くんと口きかないよ!」

「何で…。」

今度はカンナまで怒り出して、俺はどうしていいのか分からない。本当に、俺が思っている以上に女子って多感なのかもしれない。それとも俺が、女心に疎すぎるのかもしれない。

「ごめん…。俺はただ、カンナとの二人だけの時間を優先したかったんだ。三人で過ごすのはこれからだって変わらず出来るし、今までだって一緒に過ごしてきただろ。でも、カンナと恋人同士になって初めての夏休みは今年だけなんだよ。
女々しいって思うかもしれないけど、ずっと夢みてきたことなんだ。これだけは俺も我が儘かもしれないけど、譲りたくなかったんだよ。」

俺の言葉を、カンナは目を逸らさずに、口も挟まずに最後まで聞いてくれた。聞いているうちに、だんだんといつものカンナの優しい目になっていくのが分かる。この目が、俺は好きだ。

「透華くん。ありがとう。透華くんの気持ちは嬉しいよ。私だって透華くんとの時間は大事にしたい。でもね。」

「うん。」

「最後の夏休みみたいな言い方、しないでよ。」

「え?」

「初めての夏休みは今年だけだからって透華くんは言うけどさ、これが最後なわけじゃないんだよ?確かに私達、三人で過ごす時間の方がずっと長かったし、これからだってそうだけど、それは私と透華くんもそうなんじゃないの?今年限りの恋人なの?違うでしょ?」

「うん…。」

カンナの言う通りだ。俺は「恋人になって初めての夏休み」を特別視し過ぎて、まるで今しか時間がないみたいに思っていた。カンナとの時間を少しでも自分の物にしたくて、つばきの気持ちを考えていなかった。

「つばきだって一日、一年、毎年の夏休み、みんなで過ごす時間を大事にしてるんだよ。友達だとか恋人だとか関係ない。」

「うん。そうだよな。我が儘言ってるのは俺の方だった。俺、つばきに謝るよ。」

「うん!えらい、えらい。」

カンナはにっこり笑って、子供をあやす様に、背伸びをして俺の頭を撫でた。その姿が可愛くて、俺はそのままカンナにキスをした。

カンナはちょっと驚いた顔をしていたけれど、また笑ってくれた。
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