純愛
「つばき…。」

「嫌だよ、別れたくない!とーか君が嫌がること、もう絶対しないから。お願い、信じて…。」

「信じられるわけないだろ。お前さぁ、もう感覚おかしくなってるんじゃないの?殺人までしちゃったらこれくらいのこと、どうってことないって思ってない?」

鼻で笑う俺に、つばきは悲しそうな目をした。お前がやったことだろ。どれだけお前が俺に責められて可哀想ぶったって、お前の罪は消えない。

「私、自首する。」

つばきが力無く俺の肩から手を離して、ゆるゆると俺を見た。

「自首…?」

これは正直想像していなかった。思いがけないつばきの言葉に、タイムリミットだと思った。
俺の復讐を終わらせる…いや、復讐を果たす時だ。

「うん。私…、自首するよ。警察に行って、カンナちゃんは事故なんかじゃなくて私が殺したって話してくる。罪をちゃんと償って、とーか君に信用してもらえる私に生まれ変わる。だから…それまで待っててくれる?」

俺を見上げたつばきは、もう怒ったり泣き出しそうな顔はしていない。

俺に信用されたい。その気持ちが本当なのか、まだ完全には信じられないけれど、つばきがここまで従順になるとは思わなかった。

俺を手に入れる為に人殺しも出来るほど。
その罪が罪だなんて思っていなかったくせに、悔い改めると誓えるほどに。

「じゃあさ、カンナの前で、誓えるか?」

「え…?」

「カンナが死んだあの場所で、カンナに償って生まれ変わるって。誓えるか?それが出来るんならさ、今度こそ本当にお前のこと信じるし、罪を償って帰ってきたら、ずっと一生、お前の傍から離れないって約束するよ。」

「出来るよ。」

そう言ったつばきの声も表情も真っ直ぐだった。

「ふーん。だったら一学期の終業式の日。同じ時間に防波堤に来いよ。」

「同じ時間って?」

「カンナを呼び出した時間。十二時くらいだっけ?」

つばきは少し考え込む様にしてから、頷いた。

「分かった…。」

「誰にも言うなよ。これもあの時と同じだ。それから。」

「それから?」

「終業式まではお前には会わない。学校で話もしない。これが条件だ。」

「無理だよ!そんなの!会いたいよ!」

「無理じゃない!お前の決意はそんなもんなのか!?出来るよな?自首なんかしたらそれこそずっと会えないんだぞ。俺の為ならなんだって出来るんだよな?」

語尾を和らげて、つばきの手を取った。「俺も寂しいよ」って言葉を付け加えて。

つばきに拒否権なんか無いし、自首なんてさせない。いや、しなくていいんだよ。お前は自首する前に死ぬんだから。
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