純愛
復讐の為に、とーか君の前で何度も血を流した。自慢だった白い肌がどんどん汚れていくのは癪だったけれど、いつかコイツの命も奪えると思えばどうってことなかった。

とーか君の為なら何でも出来ると、私はカンナちゃんと違って血を流す覚悟もあると言ったけれど、アイツの為のそんな物、あるわけないじゃない。

私が最初にカンナちゃんの嫌がらせに血液を使ったのも、とーか君の前で何度も血を流して見せたのも、心にずっとカンナちゃんが居たからだよ。

血液も内臓も命も全て、カンナちゃんと混ざり合いたかった。

生きてるカンナちゃんの未来が手に入らないのなら、命ごと全部、私の物にしたかったの。

夏祭りで貰った金魚が一晩で死んでしまうことは、想定内だった。
酸素を送らないと死んじゃうだとか、カンナの球根には毒があるとか、そもそも食べ物じゃないことくらい、分かっててやってるに決まってるじゃん。

ビニールの袋からアクリルのケースに移してジッと一晩見守った。どの子が一番最初に死んでしまうかを。
最初の一匹が死んでしまっても、他の二匹は目もくれない。二匹目が死んでしまっても、最後の一匹はその分広くなった世界を、弱い力で泳ぎ続けた。

溺死か、毒か。
この時既に、カンナちゃんを殺してしまおうって決めていたわけじゃない。
カンナちゃんが私を受け入れてくれる。その希望だって捨ててはいなかった。

でももしも…本当に殺してしまうなら。
この金魚みたいに死んでいく様子をずーっと見ていられる溺死の方が、美しいのかもしれない。

カンナちゃんに金魚が死んだことを教えなかったのは、単純な理由だ。
とっておきは最後に残して置きたかったから。
カンナちゃんが見る「死」は、カンナちゃんのことだけでいい。

ねぇ、カンナちゃん。見てる?私、ちゃんと最後までやり遂げたよ。

この海でカンナちゃんに誓うと、あの男とした約束は、ちゃーんと果たせたよね。

私は今またここで、カンナちゃんだけに誓うよ。未来永劫、あなただけを愛してる。あなただけの為に、私は生き続ける。

水面の上でピクリとも動かなくなった体は愉快で堪らない。また腹の底から笑いが込み上げてきて、グッと我慢するのが大変だった。

あぁ。そうだ。

「とーか君にもご褒美あげなきゃね。ちゃんと死んでくれたご褒美。」

持っていたカバンから取り出したりんご飴を、海に向かって放り投げた。
ぽちゃん、と弱々しい音を立てて、とーか君の傍で浮遊した。

そんな物欲しくないと、受け取らなかったと嘘をついたりんご飴。

とーか君にあげるよ。
死ぬほど一緒に過ごしたかったカンナちゃんとの夏。ちょっとだけ返してあげるね。

そんな物、欲しいわけないでしょう。
気色悪い。

「バイバイ、とーか君。」
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