離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
 そんなふうに言われたら、これ以上責めることができない。わたしは涙をこらえて祖父の話の続きを聞く。

「慶次くん、君にも話を聞いてほしい。それを踏まえて今回の縁談のこと考えてくれ」

 祖父の言葉に小田嶋さんは、静かに頷いた。

「和歌は十歳の時に両親を亡くして、それ以降はこのおいぼれとふたりっきりで暮らしてきた。身内びいきだと言われればそれまでだが、どこに出しても恥ずかしくないように育てたつもりだ。

だがな、孤独とはつらいものだ。妻も子供も亡くした儂を支えてくれたのは、和歌だった。そんな和歌をひとり残していけない」

 わたしも慶次さんも祖父の話を真剣に聞く。口を挟むべきじゃないとわかっているけれど我慢できない。

「だったら、おじいちゃんがもっと長生きしてくれればいいじゃない」

「和歌、わがままを言うな。こればっかりはいくらかわいい孫の頼みでも聞けん」

「そんなのって……」

 こらえていた涙が再度にじみそうになる。

「慶次くん、こういった事情で和歌は見合いをすることになった。ただ儂が事情を話したのは、秘密にしておくのはフェアじゃないと思ったからだ。こんな話を聞いたら断りづらいか? 

いや、君はそういう男じゃないな。大切なことはちゃんと見分けられる」

「かいかぶりすぎですよ」

 静かに答えた小田嶋さんは今、どういう気持ちなのだろうか。

 わたしを押しつけられると思っているかもしれない。それより……祖父の病気がそんなにひどいものだとは思わなかった。

 もっと色々とできることがあったかもしれないのに、自分のことにかまけてなにも恩返しできていない。

「儂は安心してあの世に行きたい。慶次くんがダメなら次に行くだけだ。まあ、お迎えが来るまでには決めてほしいがな」

 わははと豪快に笑う祖父は、もうある程度覚悟はできているようだ。しかし今聞いたばかりのわたしはどうしていいのかわからない。

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