離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
急に話題が変わって焦る。
「俺、和歌がそんなふうにちゃんと意見を言っている姿を見たのって初めてだ。今までは俺が全部あれこれやっていたから、窮屈だったか?」
「いえ、そんなことは全然ない! そこは誤解しないで」
わたしが問題視しているのは今回の引っ越しのことだけで、これまでの彼との生活には不満なんてなかった。
「まあそんなに深く考えないで。ここからはロスタイムだと思えばいい」
「えぇ?」
もうなにを言ってるか理解できない。わたしは頭を抱えた。
「和歌、あと少し俺に時間をくれないか。そしてもう一度結論を出してほしい。俺はまだあきらめたくない」
なんでこんなに必死なのだろうか。ここ最近では離婚している人も珍しくない。それなのに彼にとってはそんなにイメージダウンになるのか。必死になる理由がわからない。
それに七尾さんのことはどうするつもりなのか。もしかしたら彼女とは理由があって結婚できないから、言うことを素直に聞くお飾りの妻が必要だっていうこと?
もうあれこれ考えすぎて頭がおかしくなりそうだ。
「和歌、色々考えさせてすまない。でも会社大丈夫なのか?」
「えっ? 嘘、大丈夫じゃない」
腕時計を確認したら、就業開始時刻の十分前だった。わたしは焦って車から降りる。
「和歌、仕事頑張って。それから、お隣さん同士仲よくしような」
慶次さんの言葉に呆れるやら、急いで出勤しないと遅刻してしまいそうで慌てているやらで、わたしは軽くパニックだ。
「もう、知らない!」
そう叫びながら車のドアを閉めると、会社の入口まで全力疾走した。