離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
それからというもの、わたしは慶次さんの行動に期待を持つようになった。だって仕方ない。
好きな人からの連絡はうれしいし、他愛のない会話でさえ次に会う時までずっと頭の中で繰り返してしまう。別れようと思ってから距離が近づくなんて皮肉だと思いながらも、わたしは彼と過ごす時間を今まで以上に大切に思っていた。
そんな今日だってお互いの部屋のベランダで防火壁越しに話をしている。彼はビールを片手に、わたしはビオラの手入れをしながら。
「それが終わったら和歌も飲むか?」
「いいえ、わたしはお酒を少し控えます」
この間調子に乗って飲みすぎて、途中から記憶をなくしてしまったので、禁酒の誓いを立てていた。
「そんなに気にすることない。酒の力が解決してくれることもある」
「例えばどんな時ですか?」
参考までに聞いてみた。
「まあ、あれだ。色々だよ、色々」
珍しく歯切れが悪い。
「え、どういうこと?」
「色々は色々だよ。あ、そうだ。来週末、和歌にちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど」
「土日なら仕事もお休みなので、大丈夫ですけど」
なんでも安易に返事をするものではないと、この後すぐに反省した。
「取引先の会社のパーティーに出席するからついてきてほしい」
「えー無理無理! 絶対無理です」
わたしは胸の前で手を振って全力で断る。
「さっきは大丈夫だって言っただろ」
「それは内容を聞いていなかったから。スケジュールは大丈夫ですけどパーティーなんて無理です!」
「どうしてだ? ただ俺の隣にいればいいだけだ。規模もそう大きくない」